壊れたFXループから生まれた「@」

― Andy Timmons と JHS Pedals、10年以上にわたるペダルの進化

Andy Timmons という名前を聞いて、多くのギタリストが思い浮かべるのは、歌うようなフレージングと、アンプの前段に置かれた一台の赤いオーバードライブだろう。JHS Pedals から発売されている「THE AT」「THE AT+」、そして最新の「AT MINI」 ―― これらはすべて、Andy Timmons という一人のギタリストの実際の使用体験から生まれてきたモデルたちだ。

今回は、Andy が手に取った一台のペダルが三世代に渡り姿を変えていった、その歩みを辿ってみたい。


すべての始まりは、イギリスの楽器店から

物語が動き出したのは2013年のこと。イギリスの某楽器店でのパフォーマンスを控えていた Andy は、本番直前、自身のチューブアンプの FX ループが突然故障してしまうというアクシデントに見舞われる。ディレイやリバーブを、いつも通りアンプのループ内に接続できなくなってしまったのだ。

幸いだったのは、その場が楽器店だったこと。豊富な在庫を抱える楽器店の協力で、その場で複数のオーバードライブ・ペダルの中から選ぶことができた。Andy が選んだのは「Angry Charlie V1」。ディレイとリバーブをこのペダルの後段に接続し、まとめてアンプの手前に配置。アンプ自体は、クリーンなペダルプラットフォームとして使うことにした。

結果は予想以上だった。サウンドは素晴らしく、ライブは大成功。この一つのアクシデントをきっかけに、Andy のリード・トーンへのアプローチは大きく変わっていく。アンプの歪みチャンネルに頼るのではなく、アンプの手前に置いたペダルでリード・サウンドを作るようになったのだ。


2015年、Winter NAMM での出会い

トラブルから2年後の2015年、Andy は Winter NAMM Show で JHS Pedals 創業者の Josh Scott と出会う。意気投合した二人の間で、「Andy のためのシグネイチャーペダルを作ろう」という話が持ち上がった。Andertons でのあの夜以来、Andy のお気に入りとなっていた Angry Charlie が、その自然な出発点となった。


2016年、「THE AT」誕生

試行錯誤を経て2016年に発売されたのが「THE AT」、愛称「@」だ。ベースとなっているのは、Angry Charlie の回路を Andy 仕様の設定に調整したもの。Angry Charlie の PRESENCE ノブは「AIR」に、TONE ノブは「EQ」にと名前を変えた。

VOLUME、DRIVE、EQ、AIR。この4ノブの構成こそが、以後の AT シリーズすべてに受け継がれていく基本骨格となった。一方で Angry Charlie 自体はその後、本物のアンプに近い3バンド EQ を採用する方向へと進化しており、AT とは異なるトーン作りのアプローチを歩んでいくことになる。

さらに、25W・50W・100W の3段階から選べるワット数切替トグルスイッチも搭載された。1台で複数のアンプのヘッドルームを再現できる、あらゆる意味で Andy のツアー用ペダルとして作られた一台だった。


2018年、ブーストを備えた「THE AT+」

2年後の2018年には、進化版となる「THE AT+」が登場する。AT のドライブ回路はそのままに、フットスイッチで独立してオン・オフできるブースト・チャンネルが追加された。このブーストは、TS808 タイプのチューブ・スクリーマー系ブーストを、Andy 好みの設定に合わせ込んだものだ。

それから8年以上にわたり、AT は Andy のメイン・オーバードライブであり続けた。一つのペダルボードだけで自分のサウンドを持ち運び、世界中のさまざまなアンプを渡り歩けるという驚くべき柔軟性は、JHS 製品にとってこれ以上ない実地テストとなった。


ツアーでの実戦が教えてくれたこと

THE AT、THE AT+、そしてすべての始まりとなった Angry Charlie。Andy はこの3機種を、長年にわたりツアーとスタジオ・セッションの両方で酷使し続けてきた。

興味深いのは、実際の使用パターンだ。AT+ に搭載された3段階のワット数切替のうち、Andy がステージで選び続けたのは、ほぼ例外なく「100Wモード」。オープンで音量があり、3つの中でもっともアンプらしいクランチ感を持つ設定だった。

一方でブースト機能については、次第に外部のブースター・ペダルへとその役割を譲っていく。ペダルボードの中で、内蔵ブーストの出番は少しずつ静かに減っていった。


2026年、コンパクトな答え「AT MINI」

そして2026年。長年のツアー生活の中で、Andy のペダルボードには数多くのペダルが積み重なり、スペースはいよいよ限界を迎えていた。

その答えとして生まれたのが「AT MINI」だ。回路そのものは AT シリーズと変わらない。しかし、実際の使用実態に照らし合わせ、機能を思い切って絞り込んだ。ワット数は、Andy が実際に使い続けてきた「100W」に固定。すでに外部ペダルへと役割を移していたブースト・チャンネルも、思い切って省略された。

結果として生まれたのは、より小さく、より軽く、そしてより手に取りやすい価格のディストーション・ペダルだ。サイズは JHS の人気ブースター「FUMBLE」と同じ。ここから、JHS の新しい小型フォーマットの流れが始まっていくのかもしれない。

回路とコントロール ―― VOLUME、DRIVE、EQ、AIR の4つのノブ――は、AT+ と完全に同一。25W/50W モードや内蔵ブーストが必要なプレイヤーには、引き続き THE AT+ という選択肢も残されている。


ANDY TIMMONS 愛用の JHS ペダルモデル(時間順)

アンディ・ティモンズ愛用のJHSペダルモデル(時間順)

Andy の好きな一台に、好きなブースターを

AT MINI が特別なのは、「機能を削った廉価版」ではなく、「Andy 本人が実際に使い続けてきた設定だけを残したモデル」だという点だ。ワット数トグルも内蔵ブーストも、Andy 自身がステージの上で少しずつ手放していったものだった。AT MINI は、その結果をそのまま形にしている。

もちろん、ブースト機能が省略されたからといって、音作りの自由度が失われたわけではない。Andy 自身がそうしているように、お気に入りのブースター・ペダルをアンプの手前に自由に追加することができる。

AT MINI も、他の JHS ペダルと同様、アメリカ・カンザス州で製造されている。使用されているのは、他モデルと変わらない高品質なコンポーネント。カラーリングは THE AT、THE AT+ と同じ色だ。

Andy Timmons 本人が AT MINI を実際に弾いているデモ動画は、JHS Pedals 公式 YouTube チャンネルで公開されている。


壊れた FX ループから始まった一つの偶然が、10年以上の時を経て、一人のギタリストの「好きな音」だけを凝縮した一台にたどり着いた。THE AT、THE AT+、そして AT MINI。3世代のペダルを並べてみると、そこに見えてくるのは、回路の進化の歴史であると同時に、一人のミュージシャンがステージの上で音を探し続けてきた歴史でもある。